1.4 角運動量の z 成分および2乗の固有値

 次の (1.3.11),(1.3.12) の固有値 λμ を求める。

(1.3.11)

(1.3.12)

 まず,λμ が満たす条件を導く。ψ が (1.4.1) のように規格化されているとすると,(1.3.11) より,λ は (1.4.2) のように表される。

(1.4.1)

(1.4.2)

 一般に,古典物理量の演算子 について (1.4.3) の関係が成り立つ(このような演算子をエルミート演算子という)。

(1.4.3)

 この関係を利用すると,x 成分について

(1.4.4)

となり,y 成分についても

(1.4.5)

である。また z 成分については (1.3.12) より,

(1.4.6)

なので,(1.4.2) より,

(1.4.7)

の関係が導かれる。

 

 次に,(1.4.8) で表される演算子(昇降演算子とよぶ)を定義する。

(1.4.8)

  の左から を作用させると,

(1.4.9)

であり,(1.4.9) の両辺を ψ に作用させると,(1.4.10) が導かれる。

(1.4.10)

 (1.4.10) は の固有関数で,そのときの固有値が であることを意味している。また,次の (1.4.11) に示されるように, の固有関数でもあり,固有値は λ である。

(1.4.11)

 さらに を作用させた関数も の固有関数になる。すなわち,以下のような固有関数と固有値のセットが存在することがわかる。

固有関数 ... ...
の固有値 ... ...
の固有値 ... ...

 (1.4.7) の関係があることから, の固有値 μ には上限と下限が存在する。 の最大固有値を μ',対応する固有関数を ψ',また, の最小固有値を μ",対応する固有関数を ψ" とすると,

(1.4.12)

(1.4.13)

である。(1.4.12) の両辺に を,(1.4.13) の両辺に を作用させると,それぞれ

(1.4.14)

(1.4.15)

になるため,(1.4.16),(1.4.17) の関係式が導かれる。

(1.4.16)

(1.4.17)

 (1.4.16),(1.4.17) より,

(1.4.18)

が得られ, であることから,(1.4.19) に示すように, の最小固有値 μ" は最大固有値 μ' の符号を−にしたものであることがわかる。

(1.4.19)

  の固有値は の整数倍だけ変化するので,μ'μ" の差も の整数倍であり,

(1.4.20)

結局 (1.4.21) の関係式を得る。

(1.4.21)

 以上から, の固有値 μ は, の値を取り得ることがわかる。また,(1.4.16),(1.4.21) より, の固有値 λ は,

(1.4.22)

となる。従って,(1.3.11),(1.3.12) は次のように書き換えられる。

(1.4.23)

(1.4.24)

 (1.4.23) では l が0以上の整数または半整数となっているが,次に固有関数 ψ を求めていく過程で,0以上の整数のみが許容されることが判明する。

Revised: 2007-07-02

「整数のみ許容」という制限は周期的境界条件(1.6節 (1.6.4))によるものである。したがって,このような条件がない場合は半整数もとり得る(例えば,スピン角運動量)。