7.7 近似原子軌道 − GTO

 分子の計算に用いる原子軌道関数には,積分計算上の困難さから 型関数の代わりに 型関数(Gauss 関数)が用いられることが多い。1s の場合,規格化定数も含めると Gauss(ガウス)型原子軌道(Gauss-Type Orbital = GTO)は,

(7.7.1)

となるが,同じ 1s の Slater 型原子軌道(STO)と比較すると距離 r 依存性が大きく異なる(下図参照)。これを改善するために,(7.7.1) の α が異なる複数の Gauss 関数の線形結合で1つの原子軌道を表現する手法がとられる。この場合の Gauss 関数は計算がしやすいよう,s 型,p 型,d 型の関数として,次の形のものが用いられる(規格化定数は省略)。ここで,α は原子の種類によらない共通の exponent とし,原子による違いは scale factor f で表すことにする。

(7.7.2)

例えば,s 軌道は複数の の線形結合,px 軌道は複数の の線形結合で表現する。また,本来 d 軌道は5つであるが, は (7.7.2) に示す6つを使用することが多い。これらの Gauss 関数はもはや1:1で原子軌道と対応していないため,「原子軌道関数」よりむしろ「基底関数」とよぶことが多い。

 STO-3G 基底関数系は3つの Gauss 関数の線形結合で STO を近似した一連の基底関数である。(7.7.3) は STO-3G の s 軌道の一般式,(7.7.4) の Ns は規格化定数である。

(7.7.3)

(7.7.4)

水素原子の 1s 軌道

主量子数 n =1, 2 の STO-3G の exponent αk と係数 dk

k n = 1   n = 2
αk dk (s)   αk dk (s) dk (p)
1 2.2277 0.15433   0.99420 -0.099967 0.15592
2 0.40577 0.53533   0.23103 0.39951 0.60768
3 0.10982 0.44463   0.075139 0.70012 0.39196

STO-3G の標準 scale factor f

Atom1s2sp3sp
H1.24
He1.69
Li2.690.80
Be3.681.15
B4.681.50
C5.671.72
N6.671.95
O7.662.25
F8.652.55
Ne9.642.88
Na10.613.481.75
Mg11.593.901.70
Al12.564.361.70
Si13.534.831.75
P14.505.311.90
S15.475.792.05
Cl16.436.262.10
Ar17.406.742.33

Slater’s rule に基づく Slater exponent ζ

Atom1s2sp3sp
H1.00
He1.70
Li2.700.65
Be3.700.975
B4.701.30
C5.701.625
N6.701.95
O7.702.275
F8.702.60
Ne9.702.925
Na10.703.4250.733
Mg11.703.9250.95
Al12.704.4251.167
Si13.704.9251.383
P14.705.4251.60
S15.705.9251.817
Cl16.706.4252.033
Ar17.706.9252.25

Revised: 2007-08-05

Ns の値を計算すると,H の 1s 軌道では 0.305115, C の 2s 軌道では 0.275471 となる。

r = 0 において,STO では
dψ/dr ≠ 0 であるが(頂点が尖頭),GTO では dψ/dr = 0 になる(頂点が平ら)。この点は STO-3G でも改善されない。

STO-3G の出典論文

W. J. Hehre, R. F. Stewart, and J. A. Pople, J. Chem. Phys., 51, 2657 (1969).

J. B. Collins, P. v. R. Schleyer, J. S. Binkley, and J. A. Pople, J. Chem. Phys., 64, 5142 (1976).