3.3 回転運動の波動関数とエネルギー

 回転運動の Schödinger 方程式

(3.2.8)

は極座標に変換すると解きやすくなる。まず,(3.1.7) 〜 (3.1.9) より (3.3.1) 〜 (3.3.3) の関係式を得る。

(3.3.1)

(3.3.2)

(3.3.3)

 以上の関係式を用いると,(3.2.8) に含まれる演算子(Laplacian)の極座標表示は (3.3.4) になる。

(3.3.4)

 ここでは,r は一定,すなわち r に対する微分は0となるので,

(3.3.5)

である。(3.3.5) を用いて (3.2.8) を書き換えると (3.3.6) になる(Er の添字は省略)。

(3.3.6)

ここで,I は慣性モーメントである。

(3.3.7)

 (3.3.6) の左辺の演算子は (1.5.10) で表される角運動量の2乗の演算子 である。したがって,波動関数 ψ は,(1.7.9) 〜 (1.7.11) で表される球面調和関数 Y に等しい。

(3.3.8)

(3.3.9)

(3.3.10)

ただし,


 Legendre の陪多項式

(3.3.11)

 また,(3.3.6) の固有値 2IE は, に等しい。したがって,回転のエネルギー E

(3.3.12)

となる。エネルギー EJ を有する状態は,量子数 M の数,すなわち 2J + 1 だけある。このことを,「2J + 1 重に縮重(または縮退)している」という。

 回転エネルギーの単位

(3.3.13)

を回転定数とよぶ。エネルギーは,E0 = 0,E1 = 2BE2 = 6BE3 = 12B となる。水素分子(1H–1H)の B の値は,1.218 × 10-21 J,塩化水素分子(1H–35Cl)の B の値は,2.120 × 10-22 J である。

Revised: 2007-07-02

(3.2.8) は並進運動(自由粒子)の方程式 (3.2.10) と同じ形であるが,
 
が一定であるという条件がついている。

(3.3.1) 〜 (3.3.3) は角運動量の演算子変換(1.5節)で既に出ている。

Laplacian(ラプラシアン)の角度部分((3.3.5) の{}内)は,Legendrian(ルジャンドリアン)とよばれ,Λ2 で表される。

慣性モーメントは回転のしやすさを表す指標である(小さいほど回転しやすい)。一般に,回転中心からの距離の2乗と質量の積を足しあわせた値として定義される。
 I = m1a2 + m2b2
重心を回転中心とすれば I は最小となり,(3.3.7) が得られる。

回転運動では,角運動量の量子数の記号 l, m の代わりに,慣習的に記号 J, M を用いる。

一般に,分極している分子は,回転エネルギー準位間(ΔJ = 1)のエネルギー差に等しいエネルギーの電磁波を吸収する。このときの電磁波はマイクロ波領域にあり,塩化水素の場合,E1E0 = 2B = 4.240 × 10-22 J に対応する周波数 640 GHz(波数 21.3 cm-1,波長 469 μm)のマイクロ波を吸収する(周波数の値は計算値であり実測値と多少異なる)。

吸収したマイクロ波の周波数から慣性モーメント I が求められるので,分子内の原子間結合距離など分子構造に関するデータを得ることができる。