10.2 光(電磁波)の吸収と放出(1)

 (10.1.12) の cm(t) を具体的に求めてみる。

(10.1.12)

 ここでは,摂動 時間に対して周期的であるような場合を考える。典型的な例として,原子や分子の光(電磁波)の吸収がある。

(10.2.1)

ただし,(角振動数)

 さらに, が,

(10.2.2)

のように座標のみに依存する と時間のみに依存する に変数分離でき, に対応する固有値を En とする。

(10.2.3)

 (10.1.3) に (10.2.2),(10.2.3) を代入すると, 時間依存部分は

(10.2.4)

となるので,

(10.2.5)

となる(定常波の形)。

 さて,(10.2.1) を (10.1.12) に代入し,さらに (10.2.5) を代入すると,

(10.2.6)

となる。ただし,

(10.2.7)

(10.2.8)

である。(10.2.6) の両辺を積分すると,

(10.2.9)

となるが,摂動が電磁波の吸収の場合,ω は 108 〜 1016 s-1 であるので,(10.2.9) の括弧内の第1項はほぼ 0 である。したがって,(10.2.9) は

(10.2.10)

と近似できる。なお,ω = ωmn の場合は,

(10.2.11)

であるが,(10.2.10) で表される cm(t) は ωωmn のとき (10.2.11) と同じ値に収束するので,cm(t) は連続関数である。

 さて,|cm(t)|2 は摂動を時間 t だけ与えたときに状態 m をとる確率を表している。
|cm(t)|2 を計算すると,ωωmn では,


   

(10.2.12)

また,ω = ωmn では,

(10.2.13)

となる。

|cm|2ω の関係

摂動前後のエネルギー差 EmEn が 318 kJ/mol (76 kcal/mol) のとき,ωmn
5.0 × 1015 s-1 である(式(10.2.8))。

ω = ωmn 付近で最大値をとり,t が大きくなるほど,シャープになることがわかる。

なお,ω = 5.0 × 1015 s-1 の光は波長 377 nm の紫外線に相当する。また,振動の周期は 1.26 fs (1.26 × 10-15 s) である。

 角振動数が ωω + dω の摂動が加わったときに状態 m になる確率は |cm(t)|2dω で表されるが,上図のように |cm(t)|2ω = ωmn 付近でのみ値をもつ。したがって,状態 m への遷移確率は ω = ωmn の場合のみ値をもち,その値は角振動数の全領域で積分した値としてよい。

(10.2.14)

 単位時間あたりの遷移確率は,

(10.2.15)

となる。

Revised: 2007-07-06