10.4 Einstein の遷移確率

 エネルギーが Em の状態と En の状態を有する単一の多数の分子(または原子)が Boltzmann 分布にしたがって分布しているとする。状態 mn にある個数を,それぞれ NmNn とすると,

(10.4.1)

となる。

 いま,角振動数 ωmn(振動数 νmn)の光を照射したとき,単位時間あたりに n 状態の分子が m 状態に遷移する個数は

(10.4.2)

である。一方,m 状態の分子が n 状態に遷移する個数は,誘導放出と自然放出の両方をあわせて,

(10.4.3)

となる。ここで,自然放出の遷移確率を Am→n とおいた。

 定常状態では (10.4.2) と (10.4.3) は等しいので,(10.4.1) を考慮して整理すると,

(10.4.4)

または,

(10.4.5)

となる。(10.3.17) で示したように光吸収と誘導放出の遷移確率は等しいので,

(10.3.17)

(10.4.5) は

(10.4.6)

となる。

 一方,絶対温度 T にある黒体から光が放出されるとき,振動数 νν + dν の範囲にある光のエネルギー密度は

(10.4.7)

で表される(Planck の黒体放射の法則)。 を考慮して (10.4.6) と (10.4.7) を比較すると,

(10.4.8)

の関係式を得る。さらに,

(10.4.9)

を (10.4.8) に代入すると,

(10.4.10)

となる。なお,Am→nBm→nBn→m を Einstein の A 係数,B 係数とよぶ。

 (10.4.9),(10.4.10) から明らかなように,光の吸収・放出に伴って状態 mn 間の遷移が起こるためには,遷移モーメント μmn が 0 でないことが必要である

μmn ≠ 0  許容遷移(allowed transition)
μmn = 0  禁制遷移(forbidden transition)

Revised: 2007-07-09