10.6 調和振動子の選択律

 HCl などの異核二原子分子は双極子モーメントを有するので,光(赤外線)が分子振動に共鳴し,吸収や放出が起こる。ここでは,電荷 +q と -q の2つの粒子から成り x 軸方向に振動している一次元の調和振動子の遷移モーメントが 0 にならない条件を導出する。

 一般に,調和振動子の波動関数は

(10.6.1)

(10.6.2)

(10.6.3)

(10.6.4)

で与えられる。量子数 n の振動状態から n' の振動状態に遷移するときの遷移モーメント μn'←n は,(10.6.5) で与えられる Hermite 多項式の漸化式を利用すると (10.6.6) のようになる。

(10.6.5)


  
  

(10.6.6)

ここで, は直交系を成すので(「調和振動子」の章を参照),遷移モーメントが 0 にならないためには,n' = n ± 1 の条件を満たせばよいことがわかる。

調和振動子では,量子数の変化が Δn = ±1 の場合のみ光(赤外線)の吸収・放出による振動状態の遷移が起こる。

 Δn = +1 の場合(吸収)の遷移モーメントは,


 
 

(10.6.7)

 Δn = -1 の場合(発光)の遷移モーメントは,


 
 

(10.6.8)

Revised: 2007-07-12

振動に伴う双極子モーメントの変化がない同核二原子分子は赤外線を吸収・放出しない(赤外不活性)。

調和振動子の平衡距離を r0 とすると,双極子モーメントは
 μ = q(x + r0)
である。